大学時代、恩師からかけられた言葉の中で、今もなお心に残っているのが、
「熱い心と冷たい手」という言葉、
子どもに向き合うときには、情熱を持って接することが大切。
けれども同時に、冷静さを失ってはいけない、
この言葉は、僕が子どもや絵本に関わるうえでの軸となり、
気づけば、もう三十年近く、この言葉を胸に
絵本の世界、子どもの世界に身を置いてきたように思う。
近年、子どもというよりは、大人にむけているのかな、思われる絵本のの背景には、
子どもたちに温かな眼差しを向ける大人が少なくなっているという、
作家からの静かな警鐘があるのではないか──そう感じる場面に出会うこともあります。
大人が絵本に関心を持ち、我が子に絵本を手渡すような時間を、
もっと増やしていきたいと考えているのですが、
現実には、そうした時間をつくることの難しさにも直面しています。
ときに、「子育てはコストパフォーマンスが悪い」「非効率だ」といった言葉がメディアに取り上げられることもあり、
そのたびに、胸が締めつけられるような思いになります。
本来であれば、そうした考えを持つ方々にこそ、
絵本のある子育ての時間がどれほど楽しく、豊かなものであるかを伝え、
大人自身も、子どもとともに成長していける──そんな体験ができることを、知ってもらいたい。
しかし、そうした価値観に耳を傾けてもらえる機会をつくることは、決して容易ではなく、
そこに、僕自身のジレンマもそこにあります。
大人になって、私たちは何を「得たい」と思っているのか。
そして、何を「残して」いきたいのか。
そうした価値観に訴えかけるような語りかけは、
やはり簡単なことではないと、日々感じています。
それでも私は、「熱い心と冷たい手」という言葉を道しるべに、
絵本を通して、大人と子どもが心を通わせる時間を、少しずつでも広げていけたら──
そう願いながら、これからも絵本と向き合っていきたいと思っています。

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